3.胃ろう(2)


 胃ろうの造設手術は無事終了した。患部はガーゼに包まれており、担当の医師から穴を開けた周囲が固まってくるまでもう少し点滴を続け、栄養食は最初は少なめに、それから徐々に増やしていくと聞いた。1日に入れる量は500ml×3回、少ないように思えたがこれでいいとのこと。
 お腹から20〜30cmほど出ている管の先に栄養食が入った容器から伸びている管をつないで、点滴の要領で流し込む。栄養食はあらかじめ人肌ぐらいに温めておき、それを1時間ほどかけてゆっくり入れていくのである。「結構時間をかけるもんなんですね」と看護士さんにいうと、早くすると下痢を起こす可能性があるからだとか。退院できるようになれば自宅でこの作業をしなければならないので、練習のため食事の時間に合わせてしばらく通うことになる。なぜ練習するかというと、これは医療行為になるので医師や看護士の方以外では家族に限定され、ヘルパーさんには頼めないからである。やってみると思いのほか簡単で、管をつないだりはずしたりするときの順序や、早さの調節さえ慣れてくれば素人でも充分扱える。
 胃ろうからの栄養補給は順調に進んで、平行して受けていた点滴もなくなり、あとはもう一度ベッドから起き上がって用を足せるように体力をつけてリハビリをしてもらおうと思っていた。しかし父の身体は予想以上に弱っており、長くても1ヶ月ぐらいの入院というはじめの目論見はもろくも崩れてしまうことになる。考えれば当然のことかも知れない。父があまりに元気だったため、ついつい90歳をはるかに超えた高齢者という現実を忘れがちで、これは気長にやるしかないと思うようになった。
 11月が過ぎ、12月に入ったある日、父が散髪したいと訴えた。その頃には当初寝たきりだった身体も少し動かせるようになり(まだまだ自分の力では無理だったが)、短時間なら人の助けを借りて車椅子に座れるようになっていたので、許可をもらって病院のそばの理容室に連れていくことになった。元気な頃は月に一度の散髪を欠かせたことがなかった父はとても嬉しそうである。看護士さんは途中で気分が悪くならないか心配されていたので、あらかじめ理容室の方に頼み30分ほどで終えるようにお願いした。「それじゃ行ってきます」「気をつけてね」の声に父はにこっと笑い、お気に入りの帽子をかぶり、パジャマの上から防寒着を着て車椅子に乗せられ出かけた。これが最後の外出だった。

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