<う ん こ 本>
「うんこ殺人」 山田風太郎
(前略)「聖なる力と、至上の智慧と、根源の愛に依って」
と運ちゃんは芝居がかった身振りで答えてから、いきなり鼻をつまんで 「おお、臭え」
吼えまくっていた自分の頬に、生暖かいものが流れ伝って来るのに鏡氏は気がついた。
「これは、一体何だ?」
「うんこ」山田風太郎という作家は、「忍法帖シリーズ」などの奇想天外な時代小説、「人生」や「死」をテーマにしたシニカルなエッセイ等々、多彩で尚且つ質の高い作品を数多く残しています。
私自身「忍法帖シリーズ」は大大だ〜い好きなのであります!
「忍法」の名のもとに、自ら身体を九の字に曲げてブーメランのように飛んでいく(「伊賀忍法帖」)とか、鳥餅のような精液!を自由に出して!相手の動きを封じる(「くの一忍法帖」)とか、挙句の果てには死人まで甦らせてしまう(「魔界転生」)…その何でもありの荒唐無稽ぶりには脱帽するしかありません!
そんな風太郎さんの原点は「探偵小説」。もともと探偵小説作家として登場してきた人で、この分野でも多くの作品を書き残しています。
さて問題の「うんこ殺人」。
タイトルに「殺人」と冠されているから「探偵小説?」と思ってしまいがちですが、「探偵小説風味の怪奇小説」といった方が正解でしょう。
主人公の鏡医師が気づいた時、‘メフィストフェレス’と名乗る船頭(=運ちゃん)が漕ぐ舟の上だった。そこで鏡医師は自分が既に死んでいることを知らされる。そして同じ舟に無残な死体となった妻と娘を発見!しかも…。(前略)−妻と娘の頭から肩へ、したたか、たっぷり、存分にうんこがかかっていたのであった。絢爛たる催吐剤、人間カレー・ライス。
「こ、こ、この侮辱は、な、な、何たる−」
何故うんこまみれなのか?という「謎」は、後段で一応解明されます。ミステリー紹介のジレンマ、残念ながらネタばらしになるので詳しくは書けませんが、結末に向けてちゃんと伏線も張ってあります。
風太郎作品の中でも最初期に発表された本作、作者自身「そんなのも書いたなあ〜」と語る‘忘れられた作品’でありますが、そこは山風、エンディングの‘うんこ本’史に残る壮大なスカトロ描写等々、実に印象的なブラック・ユーモア小説に仕上げています。