<う ん こ 本>

「蟹工船」 小林多喜二

  館を出航してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯といつも同じ汁のために、学生は皆からだの具合 を悪くしてしまった。(中略)それに悪いことには、「通じ」が四日も五日もなくなっていた。学生の一人が医者に通じ薬をもらいに行った。帰ってきた学生は、興奮から青い顔をしていた。
−「そんなぜいたくな薬なんてないとよ。」
「んだべ。船医なんてんなものよ。」そばで聞いていた古い漁夫が言った。


プロレタリア文学の名作としてあまりにも有名な小説、小林多喜二の「蟹工船」。
北海の蟹工船において、国策の名のもとに劣悪な環境下で過酷な労働を強いられている漁夫達。
漁夫ら乗員は
「糞壷」と呼ばれる不衛生で狭いタコ部屋に押し込められ、粗末な食事しか与えられない為に栄養状態を著しく損ない、多数の者が脚気などの病気に罹ります。
うんこも出ない極度の便秘状態、これはのしかかる重圧、鬱屈・閉塞感の象徴ともとれます。

−その学生は、糞が何日もつまって、頭を手ぬぐいで力いっぱいに締めないと、眠れなかった。

では「蟹工船」に‘うんこ’それ自体を描いた文章は全くないのでしょうか?
いや、あるのです。

このような状況下で死人が何人か出るのですが、その中で脚気が元で死んだ27歳の漁夫の描写は悲惨極まりないものです。

脚気(かっけ)がひどくなってから、自由に歩けなかったので、小便などはその場でもらしたらしく、一面ひどい臭気だった。(ふんどし)もシャツも赭黒(あかぐろ)く色が変わって、つまみ上げると、硫酸でもかけたように、ボロボロにくずれそうだった。(へそ)のくぼみには、垢とゴミがいっぱいつまって、臍は見えなかった。肛門の回りには、糞がすっかりかわいて、粘土のようにこびりついていた。

あれ?便秘じゃなかったの?…という疑問も湧きますが、まあ便通には個人差があるので、この人の場合は垂れ流すだけの「通じ」があったということでしょう。
とにかく、このように‘かわいた糞’=悲惨な死、という明日は我が身の姿を目の当たりにした漁夫らは、やがて団結し蜂起して監督者側に立ち向かうのであります。

本作「蟹工船」は、まず左翼系機関紙に掲載された作品ですが、生き生きと描かれた群像描写など一個の小説として優れている為、発表当時から世間一般でも高く評価されています。今日読んでも訴えかけるものの多い、時代を超える普遍性を有した素晴らしい作品です。
便秘の憂鬱感(=社会的閉塞感)は人類共通の、普遍的な悩みであり関心事ですから


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